はじめに
不動産会社(仲介会社)を挟まない「個人間売買」において、売買契約を交わす前の最も重要なステップが「現地での物件下見(内見)」です。
通常の仲介取引であれば、知識と経験が豊富な宅地建物取引士が物件に同行し、「ここには傷があります」「設備が古くなっています」「隣地との境界はここです」と、客観的な視点でチェックを促してくれます。
しかし、プロが介在しない個人間売買(直接取引)では、売主と買主の二人が現地に立ち、自分たちの目と口で物件の状態を確認し合わなければなりません。
この「下見(内見)」の段階で確認と合意をおろそかにしたまま、価格や引き渡し日だけを決めて契約書にサインしてしまうと、引き渡し後に「雨漏りがする」「エアコンが壊れている」「庭の残置物は誰が片付けるのか」といった、泥沼のトラブルへと発展します。
本記事では、40年以上の現場経験を持つ不動産直接取引のスペシャリストの視点から、個人間売買の「物件下見(内見)」で売主・買主が現地で絶対に確認・合意しておくべき項目を、実務チェックリスト形式で徹底的に解説します。
1. なぜ個人間売買の内見は「世間話」で終わらせてはいけないのか?
個人間売買、特に知人・友人同士や、ネットのマッチングサイトで知り合った親しい間柄の取引でよくある失敗が、「内見がただの楽しい見学やお茶会で終わってしまう」ことです。
相手に気を使ってしまい、「お風呂場を見せてくださいと言いづらい」「壁のシミについて突っ込んで聞けなかった」と妥協してしまうと、後から大きな代償を払うことになります。
① 「現状有姿(げんじょうゆうし)」の誤解を解く
個人間売買の契約では、「現状有姿(現状のままの状態で引き渡す)」という条件がよく使われます。
売主側は「現状有姿だから引き渡した後は一切責任を負わない」と考えがちですが、法律(民法)上、「売主が不具合を知っていたのに買主に告げなかった場合(隠れた欠陥)」は、いくら現状有姿と契約書に書いても責任を逃れられません。
だからこそ、内見の時点で「どこが壊れていて、どこが正常なのか」を双方が目の前で確認し、「この状態で買い取ります」という共通認識(エビデンス)を作ることが、双方を守る最大の防壁になります。
② 口約束はすべてその場で「メモ」に残す
内見中に「エアコンは置いていきますね」「庭の物置は処分しておきます」といったやり取りが発生したら、必ずその場でスマホのメモやノートに書き留めてください。
「言った・言わない」のトラブルは、すべて内見時の些細な口約束から始まります。
2. 契約前の内見で必ず合意しておくべき「5大確認項目」
それでは、実際の現地内見で売主・買主が一緒にチェックし、合意形成を図るべき具体的な項目を詳しく見ていきます。
確認項目①:建物の不具合・過去の修繕履歴(構造と雨漏り)
最も優先度が高いのが、建物の「構造」と「雨漏り」に関するチェックです。これらは修繕費用が数十万〜数百万円単位にのぼるため、絶対に妥協できません。
- 雨漏りの有無と履歴:天井や壁紙にシミがないか、押し入れやクローゼットの奥にカビ臭さや湿気がないかを確認します。過去に雨漏りがあった場合は、「いつ・どこを・どのような工事で直したか」を売主から具体的に聞き取り、合意事項とします。
- シロアリ等の被害の有無:床がきしむ場所はないか、柱の根元や床下点検口の周りに木粉や食害の跡がないかを確認します。過去にシロアリ駆除工事を行ったことがある場合は、その保証書(防蟻保証)が残っているかも確認します(北海道においても近年被害が発生しています)。
- 建物の傾き・ひび割れ:基礎コンクリートに大きな亀裂(幅0.5mm以上のクラック)がないか、扉や引き戸の開閉がスムーズかを実際に動かして確認します。
確認項目②:室内設備・インフラの「作動状況」
生活に直結する設備の故障は、引き渡し直後のトラブル原因第1位です。「つくだろう」と思い込まず、内見時にスイッチを入れて動かしてみるのが鉄則です。
| チェック対象 | 確認すべき具体的動作 | 合意しておくべき内容 |
| 給湯器・ボイラー | お湯が正常に出るか、リモコンにエラー表示が出ないか | 設置年数(10年以上経過している場合は故障リスクを合意) |
| エアコン・床暖房 | 冷房・暖房が効くか、異音や異臭がしないか | どの部屋のエアコンを残し、どれを撤去するか |
| 水回り(キッチン・浴室・トイレ) | 水を流して漏水・つまりがないか、換気扇が回るか | 水栓のパッキンや食洗機の動作状況 |
| インターホン・照明 | 画面が映るか、照明器具が正常につくか | そのまま譲渡するか、撤去するか |
特に、「どの設備を残し(残置)、どの設備を持ち帰る(撤去)のか」を一つひとつ指定し、後述する「設備表」に落とし込む合意をその場で行います。
確認項目③:敷地境界と屋外・庭の状態
土地や一戸建ての場合、建物の中だけでなく「外」の確認が非常に重要です。
- 境界標(境界杭)の有無:敷地の四隅に、金属標やコンクリート杭などの「境界標」がしっかりと現存しているかを売主と一緒に歩いて確認します。境界杭が見当たらない場合、売主が境界を確定させてから引き渡すのか、公簿(今の状態)のまま引き渡すのかを合意します。
- 越境(えっきょう)の有無:隣の家の木の枝や根が自分の敷地に入り込んでいないか、逆に自宅の屋根のひさしやエアコン室外機が隣地に飛び出していないかを目視で確認します。
- 庭木・庭石・屋外物の取り扱い:庭に生えている樹木や大きな庭石、物置、不要になったタイヤなどの処分費用は誰が負担するのかを明確に決めます。
確認項目④:近隣環境と「心理的瑕疵・事故歴」
不動産そのものの物理的状態だけでなく、「周囲の環境」についても売主からしっかりヒアリングして合意を取ります。
- 近隣トラブル・騒音・悪臭の有無:「近所に偏屈な人がいないか」「特定の時間帯に重低音や臭いが発生しないか」など、実際に住んでいた売主しか分からない情報を正直に開示してもらいます。
- 心理的瑕疵(過去の事故・事件・事件性):過去にその物件内で亡くなった方がいるか(病死、事故死、自死など)、火事の履歴があるかなどを確認します。事故物件である場合は、売買価格にそれを反映させる合意が必要になります。
確認項目⑤:引き渡し時の状態(ハウスクリーニングと空室状態)
内見の最後に、売買契約が成立した後の「引き渡し状態」について合意します。
- 残置物(ごみ・不用品)の処分責任:タンスや使わなくなった家具、布団、ゴミなどを「売主がすべて撤去して空にする」のか、「買主が引き取る代わりに売買価格を少し引く」のかを決めます。
- ハウスクリーニングの有無:売主が専門業者によるクリーニングを入れて引き渡すのか、現状の掃除機がけ程度(引き渡し後の掃除は買主負担)で良いのかを明確にします。
3. 内見での合意を100%トラブルゼロにする「2つの神書類」
内見時に売主と買主がどれだけ口頭で合意しても、それを書面として残さなければ意味がありません。個人間売買では、契約書を作成する前に、以下の「2つの書類」を自作してサインを取り交わすのがプロの実務の鉄則です。
神書類①:「物件状況報告書(告知書)」
売主が自ら、物件の現在の状態(雨漏りの有無、シロアリの有無、境界の状況、事故の有無など)をチェックボックス形式で回答し、買主に提出する書類です。
内見時に二人でこの用紙を見ながら、「ここは過去に雨漏りがあったけれど修繕済みですね」「ここは基礎にひびがありますが現状のままですね」と一つひとつチェックを入れます。買主がそれに納得して署名捺印することで、引き渡し後に売主が不当に訴えられるリスクを完璧に防ぎます。
神書類②:「付帯設備表」
家の中にある主要な設備(エアコン、給湯器、コンロ、照明、換気扇、温水洗浄便座など)をリストアップし、「撤去するのか・残すのか」「壊れているのか・正常に動くのか」を一覧表にしたものです。
内見の最後に二人で各部屋を回りながら記入し、お互いに同じ内容の紙を保管します。これにより、「引き渡しの時にエアコンが外されていた」「給湯器が壊れていてお湯が出ない」といった不満を100%遮断できます。
4. まとめ:内見での「丁寧な確認」が、最高の取引を作る
仲介業者を挟まない個人間売買において、契約前の「物件下見(内見)」とは、単なる「見学」ではありません。売主と買主が相互の信頼を深め、「この物件を、この状態で、この条件で受け渡す」という固い合意を作るための最も重要な現場会議です。
親しい間柄であっても、「聞くべきことはしっかりと聞き、壊れている部分は包み隠さず開示する」。
この誠実なプロセスこそが、数百万円の仲介手数料を節約しつつ、引き渡し後も笑顔で付き合い続けられる個人間売買を成功させる唯一の道です。
内見でチェックした内容や、手作りの「物件状況報告書・設備表」の書き方に少しでも不安がある場合は、売買契約を結ぶ前に、不動産直接取引のスペシャリスト(リーガル・ケアセンターなど)や宅建士に事前相談し、プロの目で契約書へ落とし込んでもらうことを強くお勧めします。
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北海道の個人間売買については、次の公式ページで実務手続きまで詳しく解説しています。
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執筆・監修:田村 三平(Tamura Sampei)代表者あいさつはこちら
認定司法書士 / 宅建士 / 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
40年以上の実務経験を持つ、不動産と法務のスペシャリスト。「リーガル・ケアセンター」代表。
これまで40年以上にわたり、司法書士として1万件近い不動産決済の現場に立ち会ってきました。
私の信条は、単なる名義変更手続きにとどまらず、知人・友人との絆を守りながら円満に資産を引き継ぐ「後悔させない解決策」を提供することです。法務・不動産実務・金融の3つの専門領域を融合し、多くの銀行が難色を示す「個人間売買の住宅ローン審査」や、税務上のトラブル(みなし贈与など)を防ぐ確実な出口戦略を構築します。
「親しい仲だからこそ、曖昧にして将来の禍根を残してほしくない」。その想いから、現在は北海道内を中心に、複雑な権利関係の整理や銀行が納得する契約書・重要事項説明書の作成、融資交渉までをワンストップで完結させる「個人間売買の駆け込み寺」として活動しています。