はじめに
不動産業者(仲介会社)を挟まずに、売主と買主が直接不動産の売り買いを行う「個人間売買」。余計な仲介手数料を1円も払わずに済むため、インターネットのマッチングサイトやSNSを通じて、自力で買主を探して売却しようと考える個人の方が増えています。
ここで、多くの方が「自分の持ち物(不動産)を自分で売るのだから、何の問題もないはずだ」と思い込んでいます。しかし、実務の現場において、絶対に知っておかなければならない強烈な法律の壁が存在します。それが「宅地建物取引業法(通称:宅建業法)」です。
宅建業法では、免許を持たない一般の個人が不動産の売買を「反復継続」して行うことを厳格に禁じています。これに違反すると、「無免許営業」として非常に重い刑事罰が科されるリスクがあります。
では、一体「何回売ると違法(反復継続)」になってしまうのでしょうか?「2回ならセーフ、3回ならアウト」といった明確な数字の基準はあるのでしょうか?
本記事では、40年以上の現場経験を持つ実務の視点から、宅建業法が定める「反復継続」の本当の基準と、個人が合法的に売却できる限界ライン、そして知らずに違法行為をしてしまわないための実践的な防衛策を徹底的に解説します。
1. そもそもなぜ「個人の売却」が違法になるリスクがあるのか?
まず、宅建業法という法律の根本的な目的と、個人間売買がなぜその規制対象になり得るのかを整理します。
① 宅地建物取引業(宅建業)の定義とは
宅建業法第2条において、「宅地建物取引業」とは以下の行為を指すと定義されています。
「宅地若しくは建物について自ら売買若しくは交換を業として行う行為、又は他人が行う売買、交換若しくは貸借の代理若しくは媒介を業として行う行為」
ここで最も重要なキーワードが、最後にある「業(ぎょう)として行う」という部分です。 日本の法律において「業として行う」とは、一般的に「①不特定多数の人を相手に、②反復継続して、③利益を得る目的(営利性)を持って行うこと」を意味します。
つまり、宅建免許を持たない個人であっても、あなたの行った売買が「業」に該当すると判断された瞬間、それは「無免許営業(宅建業法第12条違反)」となり、法律違反として処罰の対象になります。
② 無免許営業に科される「非常に重いペナルティ」
「知らなかった」「悪気はなかった」では絶対に済まされないのが法律の世界です。万が一、個人の不動産売買が無免許営業とみなされた場合、以下のような極めて重い刑事罰が科されます。
- ペナルティ:3年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金(またはその両方)
さらに、無免許営業によって結ばれた売買契約そのものが法的に無効と判断されるリスクもあり、買主から支払われた代金の返還や、多額の損害賠償請求に発展する恐れもあります。
2. 「反復継続」の真実:明確な「回数」の基準はない
ここからが本題です。多くの人が「1回だけならセーフで、2回以上はアウトなのか?」という「回数」の疑問を持ちます。
結論から言うと、宅建業法や国土交通省のガイドラインにおいて、「〇回売ったら違法」という具体的な数字の基準は一切明記されていません。
「1回しか売っていないから絶対に大丈夫」とも言えなければ、「3回売ったから即逮捕」とも言えないのが、実務におけるこの法律の難しさです。なぜなら、行政や裁判所は回数だけを見るのではなく、「取引の背景にあるすべての事情を総合的に不特定多数性・反復継続性があるか」で判断するからです。
国土交通省が示している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」では、以下の4つの要素を総合的に勘案して「業(反復継続)」に該当するかどうかを判断するとしています。
判断基準①:取引の対象者(不特定多数性)
売買の相手方が「誰か」という点です。
- 非該当(セーフの可能性大): 親族、長年の友人、隣の土地の所有者など、特定の1人に対して売却する場合。
- 該当(アウトの可能性大): インターネット、SNS、チラシなどを使い、広く一般の「見ず知らずの第三者」から買い手を募る場合。これは「不特定多数」を相手にしているとみなされます。
判断基準②:取引の目的(営利性・動機)
なぜその不動産を売るのか、という「動機」のクリーンさです。
- 非該当(セーフの可能性大): 「親から相続した実家を処分したい」「自分が住んでいたマイホームを買い替えたい」「借金返済のために資産を売却したい」など、必要に迫られた処分行為。
- 該当(アウトの可能性大): 「安く競売やネットで仕入れた古民家を、リフォームして高く転売したい(いわゆる不動産せどり)」など、最初から転売益(利益)を目的として購入・売却している場合。
判断基準③:物件の取得経緯(購入時の意図)
その不動産を「どうやって手に入れたか」です。
- 非該当: 相続、贈与、あるいは10年前に自分が住むために購入したなど、売却目的以外で取得した場合。
- 該当: わずか数ヶ月前に売却目的で購入し、一度も自分で使用することなくすぐに売りに出している場合。
判断基準④:実際の転売・分譲行為の態様
どのような形で売りに出しているかという「売り方」です。
- 1個の契約でもアウトになるケース(要注意): 「1つの大きな土地を、4つの区画に細かく線引きして(分譲)、4人に別々に売却した」という場合。たとえ売主本人が「人生で一度きりの売却だ」と主張しても、行為自体が「不特定多数へ分割して何度も引き渡す(反復継続)」形になるため、たった1回のプロジェクトであっても一発で宅建業法違反(無免許営業)になります。
3. 実務でよくある「セーフ」と「アウト」の具体例
回数だけで測れないからこそ、実際の現場でどのようなケースが問題になるのか、具体的な事例で見ていきましょう。
❌ 【アウトの事例】ネットで古民家を買い、DIYして年2回売却する
趣味と実益を兼ねて、ネットのマッチングサイトで150万円のボロ戸建てを購入。週末に自力でDIYリフォームを施し、SNSで「350万円で買いたい人いませんか?」と募集して売却。これが非常に楽しかったため、同じ年に別の物件でもう一度同じことを行った。
- プロの解説: 取引回数は年間「2回」ですが、動機が「利益目的の転売」であり、相手がネット上の「不特定多数」であり、取得経緯も「転売目的」です。これは完全に「宅建業」に該当し、無免許営業として即座に摘発されるレベルのアウトです。
⭕ 【セーフの事例】相続した複数の土地・建物を、別々の人に計3回売却する
地方に住む親が亡くなり、実家(戸建て)のほか、離れた場所にある山林、そして小作人に貸していた農地の計3物件を同時に相続した。地元の不動産会社に相談し、実家は一般個人へ、山林は地元の森林組合へ、農地は隣の農家へ、数ヶ月の間に合計3回に分けて売却が完了した。
- プロの解説: 合計「3回」売却していますが、取得の経緯が「相続」という不可抗力であり、目的も「遺産整理・処分」です。利益を得るための事業(業)として行っているわけではないため、回数が複数回に及んでも宅建業法違反にはならず、完全にセーフです。
⚠️ 【グレーからアウトへ変わる境界線】親族や知人へ「何度も」売る
「自分の所有するアパートの部屋を、知人のAさんに売り、翌年別の部屋を知人のBさんに売り、さらにその翌年Cさんに売った」というケース。 相手が全員「知人(特定の人)」であっても、毎年のように継続して不動産を切り売りしていると、行政からは「知人という枠を隠れ蓑にした、実質的な反復継続営業ではないか」と疑われ、厳しく調査される対象になります。
4. 無免許営業の疑いを完全に回避するための「3つの実践的防衛策」
一般の個人が、悪気なく「反復継続の罠」に引っかからないようにするためには、実務上、以下の防衛スキームを必ず取り入れてください。
対策①:複数の物件や広い土地は「1人にまとめて一括売却」する
例えば、相続した土地が広大で、そのままでは売れにくいため「3つに小分けして別々の人に売ろう」と考えた場合は要注意です。前述の通り、分割して複数人に売ると「分譲(反復継続)」とみなされます。
これを防ぐためには、「多少値引きしてでも、1人の買主(または1社の不動産買取業者)に全ての土地をそのまま一括で丸ごと売却する」という方法をとります。相手が1人(1回の契約)であれば、反復継続の要素を完全に消し去ることができるため、法的に最も安全です。
対策②:宅建業者に「売主」になってもらう(買取の利用)
もし、どうしても利益目的で取得した物件を転売したい場合や、複数回に分けて一般個人に売却せざるを得ない事情がある場合は、あなた自身が売主になってはいけません。
不動産会社(宅建業者)に物件を買い取ってもらうか、あるいは契約時に不動産会社に間に入ってもらい、「宅建業者が売主、または業者を完全な媒介(仲介)として取引を厳格にコントロールしてもらう」必要があります。プロの免許の枠組みの中で取引を行うことで、あなた自身の無免許営業リスクはゼロになります。
対策③:司法書士に「取引の正当性」を事前にリーガルチェックしてもらう
個人間売買を進める際、売買契約書を締結する前に、不動産取引の登記実務に精通した司法書士に相談してください。
司法書士は、登記申請(名義変更)を引き受けるにあたり、その取引が宅建業法に違反していないか(無免許営業の片棒を担ぐことにならないか)をプロの目で厳しくチェックします。「この状況での売却なら処分行為とみなされるため問題ありません」「この売り方だと業と判断されるリスクがあるので、書面をこう修正しましょう」といった、法律に基づいた客観的なリーガルチェックを受けることで、将来的な行政指導や刑罰のリスクを完璧に遮断することができます。
5. まとめ:「個人間売買」と「違法営業」の境界線を見極める
インターネットの発展により、個人が不動産を直接売り買いできる時代になったからこそ、私たちは法律のルール(宅建業法)を他人事ではなく、自分の身を守るための知識として知っておかなければなりません。
宅建業法における「反復継続」の基準は、単なる「売却回数」の数字ゲームではありません。「誰を相手に、どんな目的で、どうやって手に入れた不動産を、どう売ろうとしているのか」という取引の全体像(ストーリー)が、事業性・営利性・不特定多数性を持っているかどうかで決まります。
せっかく余計な仲介手数料を抑えようとして始めた個人間売買が、知らず知らずのうちに「無免許営業」という重い犯罪になってしまっては元も子もありません。
「この売り方は法律的に大丈夫だろうか?」と少しでも不安に思ったなら、自分だけで判断して契約書に印鑑を押す前に、法務と不動産実務のプロフェッショナルである専門家(リーガル・ケアセンターなど)へ事前に相談し、確実な安全性を確保してから一歩を進めてください。
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北海道の個人間売買については、次の公式ページで実務手続きまで詳しく解説しています。
→個人間売買と住宅ローン審査対策|否決回避+手数料節約|北海道
[無料相談・お問い合わせはこちら】
執筆・監修:田村 三平(Tamura Sampei)代表者あいさつはこちら
認定司法書士 / 宅建士 / 1級ファイナンシャル・プランニング技能士
40年以上の実務経験を持つ、不動産と法務のスペシャリスト。「リーガル・ケアセンター」代表。
これまで40年以上にわたり、司法書士として1万件近い不動産決済の現場に立ち会ってきました。
私の信条は、単なる名義変更手続きにとどまらず、知人・友人との絆を守りながら円満に資産を引き継ぐ「後悔させない解決策」を提供することです。法務・不動産実務・金融の3つの専門領域を融合し、多くの銀行が難色を示す「個人間売買の住宅ローン審査」や、税務上のトラブル(みなし贈与など)を防ぐ確実な出口戦略を構築します。
「親しい仲だからこそ、曖昧にして将来の禍根を残してほしくない」。その想いから、現在は北海道内を中心に、複雑な権利関係の整理や銀行が納得する契約書・重要事項説明書の作成、融資交渉までをワンストップで完結させる「個人間売買の駆け込み寺」として活動しています。